夢幻花 - 東野圭吾


<あらすじ>
 秋山梨乃は従兄の尚人が飛び降り自殺したことを知る。そしてその後すぐに、大事な相談相手であった祖父周治が何者かに殺され、短い間に大事な人を二人も失うことになった。

大阪の大学に通う蒲生蒼太は父親の3回忌に出席する為に東京の実家へ帰郷する。そこで兄を尋ねてきた梨乃と偶然出会い、自分も深く関わっていることを知る。黄色いアサガオは夢幻花と呼ばれていて、追い求めると身を滅ぼすという逸話があるほどだ。尚人、周治の事件には、タイトルとなっているこの花が密接に絡んでいたのであった。大変な出来事であったが、蒼太はこの経験を通して自分の人生の道標を得た。「世の中には負の遺産というものがある。それが放っておけば消えて無くなるものならそのままにしておけばいい。でもそうならないのなら誰かが引き受けるしかない。 それが俺であったって構わないだろう。」その覚悟を持って、震災後にも関わらず原子力の世界へ飛びこむ決意を固めたのであった。

<本を読んで>
いつもの東野さんの通り、時間の糸、人間関係の糸、そして家族の糸が見事につむがれています。本当に人の心を描くのがうまいなぁと、改めて思い、また犯人が最後に心の弱さを吐露し反省する場面など、性善説に立った立場もいつも共感します。東野さんは他に天空の蜂という作品も出されており、原発に対して人よりも強い想いがあるように思われます。

<補記>
2014.10.10の新聞に、黄色いアサガオの開発に成功したというニュースが掲載されました。本書を読んだわずか1ヶ月後の出来事。まるでこれを予測していたかのような東野さんの先見性、知識の深さに感動せずにはいられませんでした。

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