怪物はささやく - パトリック・ネス

2012年の中学生向け課題図書。非常に良書である。

「人生とは、言葉でつづるものではない。行動でつづるものだ。何をどう考えるかは重要ではないのだよ。大切なのは、どう行動するかだ」

p202に書かれたこの一文が、本書で伝えたいことのすべてを表している。残酷な現実に直面している 13歳のコナー少年はそれを直視することができず、夢の中の出来事なんだと自分に思い込ませ、偽りの安らぎの中で生活している。そのコナー少年の元へある夜怪物が現れる。この怪物は現実のモノかもしれないし、夢の中のモノかもしれない。少年はどちらともわからないまま、しかしこの怪物との対話の中から苦しみを真実として受け入れる準備をしていく。
そして、その時がいよいよやってくる。悪夢の中で、母親と固く握った手を自ら離してしまう。母親との最後のつながりである手を。そして自分のせいで母親はしぬのだと、自責の念にかられてしまう。
僕のせいだ。
しかし、本当に僕のせいだと思っているのだろうか。同時に、助けられない医者のせいにして、自分の責任から逃れる言い訳をしていないだろうか。そうやって二つの相反する思いを両方抱えながら、自分を押しつぶそうとする現実と必死に戦う。
中学の時期は、子供から大人へと成長する重要な時期だ。試練は人それぞれであるが、筆者はこの本を通じて現実と向き合うつらさと大切さを説こうとしている。

「(考えていることについて)まちがっているも何もない。たくさんの考えの中の一つ、百万もあるうちのたった一つにすぎないのだからね。行動に移したのとはちがうぞ(p202)」
大人になってから課題図書を読むのは良いものだ。苦しい現実に向かい合わなければならない時、ほんの些細な事で嘘をつき良心の呵責に苛まれたとき、本書に出会う前から私自身も何度もこの言葉を反芻した。その度にその苦しさを乗り越え、乗り越えられずに時が癒してくれるのを待ち、そうやって少しずつ少しずつ、長い年月をかけて心を強くし、なんとかこの歳まで生きてきたように思う。そして、いずれ迎えるであろう両親との別れの時に向けて準備を進めているのだろう。


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