本能寺の変 431年目の真実 - 明智憲三郎

 
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◆あらすじ
明智光秀の子孫が史実を丹念に調べ上げ犯罪捜査をするように431年前の歴史を捜査し、「蓋然性(もっともらしさ)」を重視して真実迫る。今の日本では、本能寺の変は残虐性を持った信長の叱責に耐えられなくなった光秀の突発的な単独犯行であるという定説がまかり通っている。本書ではこれが当時の絶対的権力者であった豊臣秀吉により作り上げた虚構であることを暴き、語られなかった真実を、現存する様々な資料から解き明かす。
 事件当日、信長は徳川家康をだまし打つために本能寺に招待していた。信長には日本統一、そして禅譲後の子孫の繁栄のために、実力者であった徳川家康を排除する必要があったのだ。かねてから信長が進める唐入りに一家存続の危機を感じた光秀。信長を排除することが唯一の解決策と思いつめるに至り、この機を利用する。単純な怨恨と考えられてきた本能寺の変は、秀吉、家康を含む当時の有力者の利害が入り混じった繊細な事件であった。
 変の後なぜ光秀は安土城へ無血入城できたのか
 突然起きた事件であったのならば、なぜ家康は労せずして三河へ帰ることができたのか
 秀吉はなぜ中国大返しができたのか
様々な出来事を語られてきた定説に捉われずに、ひとつひとつの残された記録を丁寧に調べて糸を紡いでいくことで本能寺の変の真実に光を当てた。筆者はさらにエピローグで千利休、関白秀次の切腹についても謎解きを試みている。史実を調べ上げた筆者のみが語ることのできる素晴らしい考察であった。

◆本を読んで
非常に面白く、心に残った。現在の日本人が持つ戦国の歴史観は、「小説家」である司馬遼太郎が作り上げた部分がかなり大きいが、この事件に関しては司馬さんですらも信憑性の低い「明智軍記」に従って史実を捉えていたようだ。私自身も司馬さんの大ファンで影響を受けまくっているので、驚きとともに(権力者の)作り話を信じきっている自分を反省し、考えを改めさせてくれた本書に出会えたことに感謝したい。1日1日事実を丹念に追うと様々な事実が浮かび上がって来る。とにかくdetailが大事である。detailを追求した素晴らしい作品だ。
 「時は今あめが下なる五月かな」
光秀が謀反の決意を詠んだとされる句である。世を離れる時に、自分の脳裏にはどのような句が浮かぶのだろうか。

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◆心に残った言葉や感じたことなど

  • 「研究」であって「捜査」ではない
  • 秀吉という人物は伝わっているイメージとは違い、信長の忠実な家臣でも信長を慕っていたわけでもないということだ
  • 謀反に踏みきる必要条件は二つ、1.謀反を起こさずにいれば一族が滅亡してしまう、2. 謀反を成功させる目算が立つということ。企業経営者が事業の投資効果と実行計画の妥当性を厳しく評価しながら経営を行うのと同じである
  • 「明智軍記」元禄6年(本能寺の変の約110年後)の記録。これをベースに現代人の持つ光秀像が出来上がっている。司馬遼太郎もこの軍記を参考にしていて、ますますこれに近い像が出来上がっている。
  • ユダヤ人が「シオンの丘へ」と思うように、土岐一族には没落してもなお「土岐枯梗一揆」という帰るべき心の拠り所があった。外様である光秀の立場をささせていたのが土岐一族であった。
  • 光秀の謀反は(信長の)長宗我部征伐の阻止にあったという見方ができる
  • 生き残りの為に利があればどのようにも同盟を組み替えた
  • 江戸城の裏門を(伊賀者の)勲功の褒賞として半蔵門と命名した
  • 秀吉は光秀を窮地に立たせて、光秀がどう動くかをじっと見ていた。信長の長期政権構想を潰すために、光秀の決起をいわば待っていたのだ
  •  本能寺の変の10年近く前にすでに誰かが謀反を引き起こすのではないかと読んでいた秀吉は、ある時期から、光秀こそ信長を高転びにさせるキーマンだと見定めたのだろう
  • 次世代のために何をなすべきか、何を残して何を残さざるべきかを考えることにもっと頭脳と時間を使わねばならない
  • 人物像を描く際、その人物が自分より優れた能力を持っていることを認めないと、自分のできないことをやれることを理解できない。 
  • 秀吉の中国大返しは、事前に撤収の準備がなされていた。本能寺の変の後に毛利との和睦を結んだわけではなく、変が起こる前から和睦の申し入れがあり、秀吉がはねつけていたと考えるのが妥当 
  • 細川藤孝を通じて、秀吉は本能寺の変が起きることを知っていた可能性が高い
    秀吉の卓越した才能は、相手方の家臣を味方に引き込む能力と並んで、その抜群の情報操作能力だった
  • 光秀自らの年齢(67歳)を鑑みると遠国に封じられた際、自分の代で乗りきることの時間不足、我が子への引き継ぎの危うさから相当な危機感、焦りを感じていた



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